東京高等裁判所 昭和39年(ネ)2138号 判決
外務員に対するいわゆる純然たる出来高給、能率給と呼ばれるものに属する金員が支払われた後に、その支払の前提として当然予定されていた仕事の成果が実際には存在しなかつたことが判明した場合には、当該外務員は法律上の原因なく保険会社の損失において利益を得たものとして、不当利得が成立すると解するのが相当である。何故なら右金員は、保険会社が外務員の仕事の成果に応じこれに対する報酬として支払つたものであるから、仕事の成果の存在を支払の当然の前提としているのであり、一方外務員の側からいつても、労務を提供したこと自体ではなくその仕事の成果に応じた報酬として保険会社に対し請求し得る権利なのであるから、仕事の成果が存在しなければその権利もまた当然発生しないものだからである。従つて本件において大野達夫に対し、その職務である保険契約募集の成績に応じて支払われた本件各金員は、前記当事者間に争ない事実のとおり右保険契約が違法な募集方法によつてなされた瑕疵あるものであり、その後保険契約者によつて詐欺による意思表示として取り消された以上、法律上の原因なくして達夫に支払われたものというほかない。右金員が賃金の一部を構成するものであること及び前掲各証拠によつて認められる保険会社の外務員の賃金中いわゆる固定給の占める割合が極めて低く、その大部分をいわゆる出来高給ないし能率給と呼ばれるものが占めている事実も、右の結論を左右するものではない。
(満田 中川 藤田)